一期一会
朝も昼も夜も、竹富島の良さを存分に味わいつくし、今日は波照間島へと向かう。一日三便出航している高速船のうち、昨日は1便だけが出航したという船会社の話だった。今日はどうなるだろうか。出航時刻の一時間前に、判断が下るというので、とりあえず、船の出る石垣島まで行ってみるしかない。
宿泊代を支払う時、一抹の寂しさを覚えた。宿の選択は正解だった。ご主人はもちろん、この島で知り合った人たちとの別れは、少し寂寥感が伴う。
宿の車で石垣島行きの高速船乗り場(港)へ。同じ時刻の船で石垣島へ向かうのは私たちを含め5人。その他の宿泊者はと言うと…。
なんと、民宿の自転車で、全員が、港まで見送りのため、先回りしてくれていた。昨夜、一緒にゆんたくをしたメンバー全員が、港に集まったのだ。思いも寄らないことだった。
私のカメラで、全員で記念撮影をした。そうしたら、連鎖反応で記念撮影の嵐に。
一期一会。この言葉が頭の中を巡ったが、一人旅の者同士は、ずっとつながっていくのかもしれない。中には最高の仲間に巡り会えた人もいるかも。出会いは大切にしてほしい。
ゆっくり船が離岸される。子どもに返ったかのように、昨夜の友に思いっきり手を振る。何かそうしなければならない得体の知れないものに取り付かれてしまったかのように。
石垣島へ向かう【あんえい号】が、島に残る者と、島を後にする者とを分かつ。映画かテレビドラマのワンシーンのよう。おそらくみんなの心には熱いものがこみ上げていたに違いない。昨夜の忘れがたい素敵な夜に感謝しながら。
果てのうるま(サンゴでできた島)=波照間
波照間島行きの高速船は安栄観光と波照間海運から出ている。石垣島到着後、まず駆け寄ったのは、安栄観光のカウンター。声をかける前に、カウンターの上には“波照間島行き満席”の文字。
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動いている、波照間島行きの高速船。ヤッター!えっ、でも満席?
安栄観光を諦め、波照間海運のカウンターへ。長蛇の列。不安がよぎる。昨日、島へ渡れなかった人が、今日押し寄せるであろうことは想像できる。果たして乗れるだろうか。
曇天の空の色を映しているのか、海は銀色をしていた。ビュンビュンとスピードを上げる高速船は、まるでトビウオのようにジャンプしながら目的の島を目指す。所要時間1時間。持参した沖縄民謡を聴きながらの船旅であった。音楽がなければ、もっと辛い船旅となっていたかったかもしれない。荒れる海の波の高さは、2~3mといったところだろうか。酔い止めを飲んだにもかかわらず、最後の方は、早く下船したくて仕方がなかった。
そう、波照間島行きの高速船に乗船できたのだ。定員があるので、波照間海運も満席が予測されたが、若干余裕があるように見受けられた。全便船が欠航となったら、どの島に今夜の宿を取るか、どの島を巡るかなどと思案もしたが、とにもかくにも、今日(4/24)は予定通り、波照間島へ上陸できるのだ。
チェックイン後、早速、自転車を借りて、昼食場所へ向かう。波照間島は、スペインのように、昼食後にシエスタ(スペイン語で昼寝・午睡・休憩の意味)という習慣があり、お店を閉めてしまう時間帯があるらしいのだ。そんな時間に食堂を探そうものなら、いつまで経っても胃袋は満たされないままになってしまう。14時をとっくに過ぎているので、ペダルを漕ぐ足にも、自然と力が入る。
目指していた【青空食堂】は名前の通り、全席屋外となっており、プールサイドなどで見かける白いテーブルとイスが並べられている店だった。隣の空き地で飼育されているヤギがこっちを見ていた。
空腹に加え、開放的な空間
での食事がおいしくないはずがない。運ばれてきたお料理はどれもボリューム満点。夫も目を見張っていた。ちゃんぽんそばに豚のしょうが焼き定食、テビィチ(豚の豚足)は、沖縄では珍しく、薄味だった。
有人島では最南端の島
初めて訪れる波照間島は、竹富島とは全く 異なった景観の島だった。まだ若いサトウキビ畑が広がり、野生のヤギが生息している箇所もある。海岸線から集落に向かって坂道を上るような形をしている島なので、坂道を気持ち良く下ったら、今度は自転車を引いて上らなければならない。鍛えられる。
島で一番美しい浜と称される北浜(ニシハマ)。相変わらず風が強いが、海の美しさは垣間見ることができた。息を飲むほどに爽快なブルーに向かって、風を切りながら坂道を疾走して行く爽快感はたまらない。
集落は島の中央にある。日本最南端に位置する小学校の目と鼻の先に駐在所があった。ここも日本最南端の駐在所である。そうやって駐在所を眺めると、つい写真も撮ってしまうというもの。描かれていた日本列島。波照間島が赤く塗りつぶされていた。最南端であるという名誉を誇示するかのように。
波照間島は人が住んでいる島としては、日本最南端となる。島の南側に“日本最南端の碑”も建立されている。親切な案内板もない、野生のヤギが道を阻む、そんな苦労をした甲斐もあり、日本最南端の場所までたどり着いた 時の感動といったらなかった。
高那崎という崖に碑は建つ。今回の旅では、砂浜ばかり見て歩いていたので、崖という荒々しい光景に少し戸惑う。こんな姿も、離島にはあるのかと。
最南端証明書も発行されている。「要らない」という夫の一言で、手に取って見る機会を逸してしまったが、星空観測タワーなどで発行されているらしい。
幻の酒
夫にはこの島で探しているものがある。それは…。
“泡波”という幻の泡盛だ。泡波は波照間島で作られている泡盛なのだが、出荷量が極端に少なく、希少な泡盛として、知る人ぞ知る泡盛なのである。地元の住民でもなかなか入手できない言われており、滞在日数が限られている旅人となれば、入手困難であることこの上ない。

全ての売店に立ち寄り、泡波の存在を確かめるも、置いてある売店は見つからなかった。中には、酒造所へ電話をかけ、すぐに出荷できる泡波があるか問い合わせてくれた売店もあったが、結局、納品されることはなかった。
ところが、幸運というものは、どこに転がっているかわからないものである。偶然という言葉で片付けるにはためらわれるほどの出来事が私たちを待っていた。
諸般の事情があり詳細は記せないが、泡波を入手できたのだ。しかも定価で。その時の夫の喜びようといったらなかった。
波照間島の水質はあまり良くない。その水から作られる泡盛だから、泡波は格別おいしいというわけではない。ただ希少価値がある泡盛ということだけで、夫は欲しかったらしい。波照間島で680円の泡波が石垣島では約5000円、沖縄本島ではさらに価格は釣りあがり、東京では想像ができないような価格になるという。こんなお酒もあるのだと知った。
四つの星
夕食後、民宿の車で星空観測タワーを往復した。曇天であることが残念でならない。と言うのも、日本ではこの島からでしか見られないという星座があるのだ。その星座というのは、南十字星だ。見える季節もちょうど今ごろ。タイミングとしては言うことなし。なのに…。
星空観測タワーにいる時間帯に、
夜空を覆う雲が途切れる奇跡は起こらなかった。南十字星を見る願いは叶わなかったのだ。最果ての島まで来ていながら、残念でならない。いつだったか、夫が南十字星を見たいと言っていたことがあった。私以上に、夫も残念でならないだろう。
民宿けだもの荘は宿泊者全員でゆんたくする習慣はないようだ。宿のご主人と一人旅の女性数人が遅くまでおしゃべりしていたが、私たちは自室でオリオンビール、沖縄缶チューハイで、最南端の島の夜に乾杯した。島の売店で買った沖縄産黒糖を使用したかりんとうと沖縄民謡を酒の肴にして。4月下旬らしかぬ肌寒い夜だった。
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